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東京高等裁判所 昭和50年(う)2679号 判決 1976年11月05日

国籍

韓国

住居

東京都板橋区大山町五五番地五号

金融業

作田政成こと

鄭一鶴

大正一四年一二月一三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五〇年一一月七日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人から適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官粟田昭雄出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官作成名義の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。所論は、要するに原判決の量刑は重きに過ぎ不当である、というのである。

そこで、所論に徴し、本件記録を精査し、且つ当審における事実の取調べの結果に基づいて考えるに、原判示二箇年分のほ脱税額は原判示のように合計金一、八四八万三、〇〇〇円であつて決して少額であるとはいえないこと、被告人は、自己の営業収入が徴税官署に探知されるのを防ぐため、日興物産なる商号で営業をしていた間を除いて営業名義に他人の氏名を使用し、その商号も転々と変え、その都度事業所も他へ移転させ、主要帳簿である日計表も短期間保管しただけで破棄してしまい、また利息収入も仮名で銀行等に預金し、預金額がふえると、少額を残して他の銀行に同様の方法で預金替していたものであることなどの本件犯行態様に、被告人が現在に至るも前記ほ脱税額を完納していないことなどを総合すると、被告人が原判示二箇年分に関しては所得の修正申告を行いその税額の一部を納めた他、国税庁から差押えられた被告人所有の不動産につき所有権移転登記に必要な書類を国税庁に差入れるなどして、原判示ほ脱税額を完納すべく努力していること、被告人が現在病弱で同人の営業も休業状態にあることなど被告人にとつて汲むべきすべての事情を十分斟酌しても、原判決の量刑が重過ぎ不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により、本件控訴を棄却することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎四郎 裁判官 佐藤文哉 裁判官 中野久利)

○ 控訴趣意書

被告人 作田政成

右者に対する所得税法違反被告事件につき次のとおり述べる。

昭和五一年一月二〇日

右被告人弁護人

弁護士 小林茂実

東京高等裁判所

刑事第一部 御中

左記事情を考慮の上更に寛大なる御判決を賜り度い。

(一) 本件において被告人が脱税した所得税額は昭和四六年分、四七年分合計一、八四八万円余である。

右金額は、決して少いとは言えないが、然し、日本国の納税の現状から見て、厳罰を科して処断しなければならない程の金額ではないと考える。

第一審の判決の特に罰金刑は苛酷である。

(二) 尚、右脱税額は完納してはいないが、被告人は完納すべく日夜努力しており、又その裏付けの資力、財産もある。(証拠説明書参照)

すなわち、脱税による国家の損害は補填され得る状況にあり、又国税庁当局も、被告人の誠意を認め、多少の年月をかけても被告人の完納を期待してその時期を猶予している。尚、被告人がすでに納めた金額は一九〇万円である。被告人が直ちに完納できない事情としては、経済事情の急変により被告人自身も七千万円余の不渡債権を有するに至つた。

(三) 被告人は本件により、納税義務の重大なることに気付き改心し、自己の業務を会社組織に改め、二度とかかることのないように決意している。

(四) 被告人には妻子のある家庭があり、皆被告人の身上を心配しており、とくに、被告人は現在病弱である。

従つて罰金を収めることができず、留置されることになると、被告人に取返しのつかないことになる虞がある。

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